秘密の繋がり
無言の部屋に珈琲と紫煙の香りが充満していく。
「吸い過ぎると体に毒だぞ」
本に目を落としたまま隣の魔女が呟くように言った。
「あぁ」
ライターの火を見ながら俺は新しい煙草に火をつけた。
そしてまた沈黙が世界を支配する。
この時間がずっと続けばいいと思う程度にはこの感じがスキだった。
聞こえるのは本がめくられる音だけ。
折角一緒にいるのだから何か話せばいいのにと思うのだが、たわいない言葉でこの雰囲気を壊してしまいたくなかった。
カッコつけて言うと言葉なんか必要ない。うん、多分そんな感じだ。
しかし、良いことは長続きしない。
俺の携帯のかん高い音が静寂を引き裂いた。
「はい」
仕事の電話だった。
「仕事か?」
電話が切れると彼女がそう言った。
「ああ」
彼女は多分俺がどんな仕事をしてるのか知っている。
「行ってくる。お前はもう少しゆっくりしていけ」
煙草を灰皿に押しつけ俺は立ち上がった。
「いい、私も出る」
短く彼女はそう言ってカップの中に入っていた珈琲を飲み干した。
「また連絡しろよ」
「憶えてたらな」
連絡は俺からの一方通行。それが俺達のルール。
一瞬唇を重ねて俺達は部屋を後にした。
「気をつけろよ」
去り際にいつも祈るようにあいつが言う台詞が頭をよぎった。
心配ばかりかける。
ごめんな。
硝煙と血の匂いの中で俺は星を見上げてあいつの笑顔を想った。
お前にまた会いたい。
だから俺は死なない。